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2025/05/10 16:45

── 最上鴨が屋内で育つ理由 ──

私たち最上鴨の原点は、「鴨にとって最適な環境とは何か」という問いから始まりました。多くの方が「自然の中で放し飼いにする方が鴨は幸せなのでは?」と思われるかもしれません。私たち自身も最初はそう考えていました。


この記事で分かること

・野生の鴨と家禽として改良された鴨の生理的な違い

・屋外飼育でチェリバレー種やバルバリー種(フランス鴨)が直面するリスクと課題

・最上鴨が採用する屋内飼育の本当の意味と工夫

・「腸を育てて、鴨を育てる」という独自の飼育理念

・現在の鴨舎の課題と今後の改善計画


屋外飼育の挑戦と気づき

鴨の飼育を始めた当初、私たちは自然に近い環境で育てるべく、屋外での飼育に挑戦しました。野生の鴨が水辺や草原で暮らす姿に近づけたいという思いからでした。

しかし、実際に試してみると想像していた結果とは大きく違いました。屋外で飼育した鴨たちを日々観察していくうちに、私たちが予測していなかった様々な問題点が浮かび上がってきたのです。何羽もの鴨が体調を崩し、病気やケガが続出。夜になっても落ち着かず、常に警戒している様子の鴨たちを見て、私たちは考え込みました。


「この育て方は、本当に鴨のためになっているだろうか?」


品種による違い ー 野生の鴨と家禽の鴨は違う

時間をかけた観察と試行錯誤の末、私たちはある結論に達しました。

「チェリバレー種のような家禽として改良された鴨は、野生の真鴨とは異なる生き物であり、その生理的特性に合わせた環境づくりが必要」

真鴨(まがも)は自然界で生き抜くために進化してきました。彼らは特殊な尾脂腺(ぼんじり)から分泌される油を羽に塗り、完璧な防水機能を維持します。その結果、雨や水中でも体温を失わずにすみます。また、敏捷な身体と警戒心の強さで、天敵から身を守る術も持っています。本来であれば、水辺で外敵が接近した際には水に逃げ込むことで追いつかれないようにする生存戦略を持っています。

一方、私たちが育てている最上鴨(チェリバレー種)は、長い年月をかけて人間と共に歩んできた家禽品種です。体は大きく重く、羽の油分泌量も野生種ほど多くありません。飛翔能力も限られ、捕食者から逃げる能力も弱くなっています。鶏と違って俊敏に飛んだり跳ねたりする能力に乏しく、足も遅いため、外敵から身を守ることが非常に難しいのです。

つまり、こうした家禽の鴨を屋外で飼うことは、室内犬を突然野外に放つようなものなのです。


屋外環境がもたらすリスク

屋外環境は一見自然に思えますが、家禽化された鴨たちにとっては多くのストレス要因が潜んでいます:


鳥インフルエンザのリスク:野鳥との接触により、感染リスクが高まります。海外の調査では、屋内飼育の方が発生率が半分以下に抑えられるという報告もあります。


足病(趾瘤症)の発生:濡れた土や固い地面の上を歩くことで、特に体重の重いチェリバレー種は足に炎症や傷を負いやすくなります。


環境ストレス:鴨は非常に敏感な動物です。ヘリコプターの音、車のライト、天候の変化など、私たちが気にも留めないような環境変化に、彼らは強いストレスを感じます。


睡眠不足とその影響:野外では常に警戒を強いられ、安心して休息が取れない状態が続きます。これが免疫力低下や成長不良につながることもあります。


環境への負荷:一定区画で多くの鴨を飼育すると、その糞が地面に蓄積され、土壌環境が悪化する問題も生じます。


屋内飼育の真の意味 - 「閉じ込める」のではなく「守る」

「屋内飼育」という言葉を聞くと、狭い檻に閉じ込められた不自由なイメージを持たれるかもしれません。しかし、私たちの目指す屋内飼育は全く異なります。

最上鴨の鴨舎は、鴨が自由に動き回れる平飼いスタイルで設計されています。床材は柔らかく、適切な照明と静かな音環境、新鮮な水が飲める給水設備を整えています。

そして何より重要なのは、「腸を育てて、鴨を育てる」という基本理念に基づいた飼育方法です。

私たちは黒麹、米糠、古代海洋資源、牡蠣殻、オリゴ糖、もみ殻付き飼料用米などを特別に配合した飼料を与えています。これらは鴨の腸内環境を整え、免疫機能を高め、肉質の改善にもつながります。腸内環境が整うことで、鴨は健康になり、ストレスへの抵抗力も高まるのです。


現在の課題とこれから

もちろん、現在の屋内飼育にも課題はあります。現在の鴨舎は鳥インフルエンザ対策として防疫機能を優先した構造になっているため、太陽光が十分に入らない点が改善の余地があります。

これからは、鳥インフルエンザ対策と鴨の快適さの両方を満たす環境づくりを目指します。より自然光を取り入れつつ、安全性も確保した次世代の鴨舎の設計にも取り組んでいきたいと考えています。


大切にしているのは「鴨らしさ」の尊重

私たちの目指すのは、単なる「効率的な生産」ではありません。鴨たちが鴨らしく、穏やかに過ごせる環境を整えることで、結果として優れた肉質と栄養価を持つ鴨を作出することです。

動物を育てるというのは、シンプルに言えば「命に関わる」仕事です。私たちは毎日、鴨たちの命と向き合いながら、その生き方をできるだけ尊重することを大切にしています。


最後に

理想と現実のバランスを取りながら、鴨にとっての「最適な環境」とは何かを常に問い続ける。それが私たち鴨農家です。

もし興味を持たれましたら、山形県新庄。最上にぜひお越しください。この地で育まれる米や蕎麦とともに、最上鴨の物語をより深く知っていただければ幸いです。


【お問い合わせ先】 

電話: 0233-29-7380 

メール: info.office.katosyoji@gmail.com